第3章 建物デザインに隠された意味を知っていますか?
当初、スローン男爵のコレクションは、17世紀の邸宅「モンタギュー・ハウス」に収蔵されました。
このモンタギュー・ハウス、かなり古い邸宅だったので、改修工事をしてからの展覧会をひらくことになりました。
コレクションの多くは手記や本だったため、博物館というより図書館に近かったそうですよ。
その後、コレクションが増えるごとに増築を繰り返していきました。
画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/モンタギュー・ハウス
所蔵品が次々に増えていったので、さらなる収蔵スペースが必要となり、1823年に邸宅は取り壊され古代ギリシア風建物へと建て替えられました。
どうしてギリシア風の外観にしたのですか?
いい質問ですね!
それは古代ギリシア文明が、ヨーロッパ文明の礎とも言える存在だからです。
〜古代ギリシャ風の建物に意味を込めて〜
建築デザインを担当したのは、当時建築界のギリシャ・リバイブルの先駆者だったロバート・スマーク卿(Sir Robert Smirke)。
画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Smirke_%28painter%29
ギリシア文明は古代エジプトから数学や天文学などを学び、学問を発達させていきました。
古代ギリシア文明はまさに文明のスタート地点とも言えるでしょう。
そんな古代ギリシャ神殿を模倣することで、”素晴らしい展示品が収容されている”ことを演出しました。
パルテノン神殿にも似た荘厳な外観だけでなく、内装も古代ギリシャの建築を模倣しています。
パルテノン神殿は太陽の光の加減や遠近法を考慮し、綺麗に見えるように計算された建物だと聞いたことがあります。
入り口の屋根にある彫刻にも意味が込められています。
デザインを担当したのは彫刻家のリチャード・ウェストマコット(Sir Richard Westmacott)。
画像引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Westmacott
当時はビクトリア女王が統治する時代は、まさに植民地帝国の黄金時代。
それを象徴するかのように、これまでの”文明の進歩”をコンセプトにした彫刻を施します。
ここで表現されている寓意(アレゴリー)はいろんな絵画でもみられます。
アレゴリーって何ですか?
アレゴリーとは、何かを表す時の象徴として使われる比喩表現のことです。
例えば白色は純潔を、天秤は公正を表します。
絵画ではさらに意味を持たせるために別の表現をすることもあります。
古代ギリシャの愛と美の女神、アフロディーテ(ヴィーナス)を例に挙げると、
National Gallery 所蔵
ルーカス・クラーナハ《ヴィーナスと蜂蜜泥棒のキューピッド》1526-1527年
彼女は花をまとった裸婦で描かれ、美や性愛を象徴しています。
しかし、画家によっては蜂蜜とともに描かれたりもします。
蜂蜜は甘い快楽ではあるけれど、蜂たちから攻撃を受けるという苦痛がある。
つまり愛は甘いが苦痛を伴うもの、と考えられていたんですね。
アイテムによって描かれている人物が誰なのかを明らかにしたり、
描かれている題材のメッセージを込めたりするときに使われるのですね!
さて、大英博物館の入り口の彫刻では、左から右にかけて人類の進歩が表現されています。
まず一番左は先史時代。
左からワニ、熊、人の姿が見えますね。
人の横にいる天使は知識を象徴するランプを手に持っています。
”文明の始まり”です。
天使のすぐ後ろには狩人がいます。
犬を使って狩をしていた時代の描写ですね。
そしてその右には3人の女性がいます。
この3人はそれぞれ、建築である柱、彫刻に必要なノミ、絵画を表す絵の具用のパレット、で表現されていますね。
芸術チームですね。
どうして3人とも女性なのでしょう?
それは古代ギリシャでは芸術を司るのは女神(ミューズ)とされていたことから、女性の姿で描かれることが多いですね。
元々は文芸や音楽がメインの神様だったのですが、時代を下るにつれて絵画や彫刻といった分野も担っていたと考えられます。
そして、中心にいる人は、地球儀を持っています。
地球儀は栄誉や権力といった世界の信仰を表すシンボルです。
王国として繁栄してきたことを表しているのでしょうか。
その右には文明を築いた要素が表現されていますね。
ローブを着た男性の後ろには幾何学模様、
そして足元には金色の天球儀が置いてありますね。
彼は数学者、天文学者だと思われます。
その横には、劇で役者が使うマスクを持っている人、詩歌を表現する竪琴を持つ人、そして文明を築いた市民たちが表現されています。
たしかに、古代ギリシアでは役者は人の顔の形をした大きなマスクを使って
役を演じた、と習いましたね!
最後の人物は市民です。
よく見ると奥には象の鼻やバナナの木、そして貝殻と亀が彫られていますね。
このようにレリーフにも、恐竜の時代から19世紀までの文明の進歩がここにある、という意味が込められているのです!
博物館の歴史年表&まとめ
1753年 スローン男爵のコレクションがイギリス政府に遺贈。
イギリス議会は世界初の一般公開向けの無料博物館を創設することを決定。
1759年 大英博物館オープン
オープン当初は、博物館関係者によるツアー参加のみ。入場制限があり、入館時間も短かった。
1823年 国王ジョージ3世の蔵書が寄付される。
建物リニューアル。古代ギリシア風の外観に。
1830年〜入場制限が徐々に緩和。
コレクションが増え、建物の増改築が繰り返される。
1881年 分館として自然博物館設立
1970年〜大英図書館設立
現在:毎年600万人以上の来館者が世界中から訪れている
✏世界初の博物館は創立260年!(2022年現在)
✏もともとは、スローン男爵のコレクションだった。
✏大英博物館には現在、800万点のコレクションがある。
✏自然史博物館、大英図書館も元々は大英博物館の一部だった。
いかがだったでしょうか?
たった一人の趣味であるコレクションがこんなにも大きな歴史ある博物館へと変わっていったのは驚きですね!
次回は、大英博物館の展示をじっくりと覗いてみましょう!
参考文献一覧
【ウェブサイト】
大英博物館
https://www.britishmuseum.org
大英図書館
https://www.bl.uk/collection-guides/the-kings-library
大英博物館入り口装飾
http://www.speel.me.uk/sculptlondon/bmpediment.htm
イギリス王家家系図
https://www.gran-fenix.com/misc/royal_uk/index.htm
ハンス・スローン
https://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Sloane
ウィリアム・ハミルトン
https://en.wikipedia.org/wiki/William_Hamilton_(diplomat)
ジョージ3世
https://en.wikipedia.org/wiki/George_III
ロバート・スマーク
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Smirke_%28painter%29
リチャード・ウェストマコット
https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Westmacott
【書籍】
The British Museum -The History and Legacy of Britain’s Most Famous Public Museum- by Charles River Editors
『貨幣価値の見極め : 18世紀英国文学の理解のために』著:藤井 哲 福岡大学研究部論集 A:人文科学編 第6巻第4号 福岡大学研究推進部 2006-11発行
(記事制作:Rena)
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